薬剤師が投稿すべきではないAI生成コンテンツについて考える(前編)
皆さんは、「薬剤師がSNSに投稿すべきではないAI生成コンテンツ」の線引きができますか?
そんなのできて当たり前だ、と思われている方も多いかもしれませんが、AI生成コンテンツでちょっとした炎上騒ぎも起こっている現状を踏まえ、今回は記事を2つに分けてこの線引きに関して改めて考察しようと思います。
前編では、まず過去の研究を参考に、AI生成コンテンツを公開するにあたってどのような点に注意すべきなのかを整理します。
過去の研究からヒントを得る
少々理屈っぽいですが、まずは過去の論文を見て、AI生成コンテンツを公開する場合の注意点を整理していきます。
1. 笑いと不快感は、同時に生じうる
ユーモアを説明する理論の一つとして「benign violation theory」が提唱されています [1] 。日本語で言うと「無害に感じられる逸脱の理論」といったところでしょうか。
簡潔に言うと、「普段の期待やルールから外れているが、それが安全・許容可能と感じられるときに、ユーモアが成立する」というものです [1] 。
加えてMcGrawとWarrenは、「笑いや愉快さと、嫌悪感は同時に生じ得る」とも述べています [1] 。
これは、誰かがコンテンツに対して爆笑したとしても、その人が内容自体に賛同しているとは限らない、あるいは不快に感じている可能性があるという考え方です。
2. 作者の大丈夫と、相手の大丈夫は一致しない
KantとNormanは、「ユーモアを考える際には、作り手と受け手、笑いの対象の関係性に加え、立場の強弱や文化を考慮する必要がある」と論じています [2] 。
例えば、薬局長がSNSに「部下のスタッフのコミカルなポーズのAI生成画像」を公開するケースを考えたとき、心理的安全性が低い薬局では部下がはっきり「嫌だ」と言いづらいことが考えられるため、部下が表面上は笑って応じていても、本当は公開してほしくないと感じているかもしれません。
このような状況で公開されたAI生成画像は、一部の事情を知っているスタッフは「面白い」「適切」と感じるかもしれませんが、他の多くの方々は「不快」「不適切」と感じる可能性があります。
3. たとえ冗談でも、誰かの意思決定に影響を及ぼす可能性がある
Fordらの2件の実験では、女性を見下すような「冗談」に触れた条件下では、もともと女性への敵意や偏見が強い男性ほど、女性団体への寄付予定額を少なく答えたり、予算を大きく減らす判断をしたりする傾向があったと報告されています [3] 。
これは、たとえ冗談のつもりであったとしても、もともと誰かが持っているバイアスに基づく判断を後押しする可能性があることを示唆しているといえます。
4. AI生成の人物であることを見分けるのは、意外と難しい
2022年のNightingaleとFaridの研究では、315人がAIで作った顔と実写の顔を見分けるタスクに挑戦しましたが、平均正答率は48.2%でした。
さらに、別の219人に見分け方を教えて回答のたびに正解を伝えた実験でも、正答率は59.0%にとどまっていました [4] 。
少々昔の実験なので現在のモデルでは事情が異なるかもしれませんが、誰かがAI生成画像の人物を見て、実在する人物なのか架空の人物なのかを見分けるのは意外と難しいともいえます。
5. AIが生成した画像には、バイアスが含まれる可能性がある
2025年の研究では、10種類のStable Diffusionのモデルに「問題のある内容」を求めて24,000枚の画像を生成させたところ、暴力的な場面に特定の人種が偏って出現する傾向があると報告されています [5] 。
つまり、プロンプトを入力したユーザー側にそのつもりがなかったとしても、結果的に特定のバックグラウンドを持つ人々を一方的に悪く描くような表現になってしまう可能性もあるということです。
6. 「AI生成コンテンツ」と表示すれば何でも公開できるわけではない
NISTは、生成AIによる侮辱的なコンテンツや同意のない性的な合成メディアが、プライバシーの侵害や心理的・感情的な被害につながり得るとしています [6] 。
実際このようなコンテンツは、たとえ「AIで生成」と表示していたとしても、不特定多数に公開されるべきではありません。
「AIで生成」と表示することは透明性の観点から見ると重要なことではありますが、上記のようなコンテンツを作成することに関して何らかの同意が得られたことを保証するものにはなりませんし、表示によってそのようなコンテンツの公開が許容されるわけでもありません。
前編のまとめ
ここまでの内容を踏まえて、AI生成コンテンツを公共の場に公開するにあたっての注意点を整理します。
- 初めて見る人がどう感じるかを想像する
例えば笑えるコンテンツとして公開するなら、その笑いの中心が「誰かの侮辱」「名誉毀損」などに該当しないかを確認しましょう。
特に、その対象は個人だけでなく、特定の施設や職種全体にまで波及する可能性があることも忘れてはなりません。 - 描かれた人の同意を得る
実在する人物が特定できるようなコンテンツを公開する場合は、本人の同意を得てからにしましょう。
また、上司が部下の姿を使ったコンテンツを作るのは、部下が実質拒否できない可能性を考え、なるべく避けた方が良いでしょう。 - 事実だと誤解され得るコンテンツは公開しない
実際の出来事と誤認されかねないコンテンツは、原則公開すべきではありません。
何らかの事情があって公開する必要があるならば、AI生成コンテンツであることを誰の目から見てもわかるようにしておき、併せてフィクションであることも明記しましょう。 - 侮辱的・差別的なコンテンツや、同意のない性的な合成メディアは公開しない
たとえ「AIで生成」と表示していたとしても、このようなコンテンツは公開してはなりません。
内容によっては、コンテンツを閲覧した側の持つ偏見の助長につながる可能性があります。 - どこで、誰が見るのかを意識する
特に職場の公式アカウントでは、コンプライアンスの観点からこのような意識が必要です。
AIが生成した画像にはバイアスが含まれる可能性があるという前提のもと、コンテンツの公開は慎重に行いましょう。
もし迷ったときは、別の誰かに意見を求めても良いでしょう。別の視点から見てもらうと、自分では見つけられなかった問題点が新たに見つかるかもしれません。
また、意見を求める際は面白いかどうかだけを尋ねるのではなく、誰が何をしているように見えるか、どういう印象を受けるか、誤解を招く表現がないか、その他どこが気になるかなどを具体的に指摘してもらうようにしましょう。
過去の記事「調剤薬局の薬剤師が安易にSNSに投稿すべきではないコンテンツ14選」も併せてご覧ください
AI生成コンテンツかどうかに関わらず、(薬局の)薬剤師が安易にSNSに投稿すべきではないコンテンツの例を下の記事にまとめています。皆様お忙しいかと思いますが、是非いちど目を通して頂けますと幸いです。
<関連記事>
前編は以上になります。
後編では、具体的な例を提示しつつ、薬剤師が投稿すべきではないAI生成コンテンツの線引きを考察していきます。
<後編(後日公開)>
参考資料
[1] McGraw, A. P., & Warren, C. (2010). Benign Violations: Making Immoral Behavior Funny. Psychological Science, 21(8), 1141–1149.
[2] Kant, L., & Norman, E. (2019). You Must Be Joking! Benign Violations, Power Asymmetry, and Humor in a Broader Social Context. Frontiers in Psychology, 10, 1380.
[3] Ford, T. E et al., (2008). More Than “Just a Joke”: The Prejudice-Releasing Function of Sexist Humor. Personality and Social Psychology Bulletin, 34(2), 159–170.
[4] Nightingale, S. J., & Farid, H. (2022). AI-synthesized faces are indistinguishable from real faces and more trustworthy. PNAS, 119(8), e2120481119.
[5] Schneider, M., & Hagendorff, T. (2025). Investigating toxicity and Bias in stable diffusion text-to-image models. Scientific Reports, 15, 31401.
[6] NIST「Artificial Intelligence Risk Management Framework: Generative Artificial Intelligence Profile」
https://nvlpubs.nist.gov/nistpubs/ai/NIST.AI.600-1.pdf