AIを業務に取り入れる前に

AIの進化のスピードは凄まじく、「なんでもかんでもAIの力で効率化できるのでは」と錯覚してしまいがちですが、そこは少し冷静に考え直さなければなりません。
これは大規模なプロジェクトに限った話ではなく、ChatGPT等の生成AIを業務に組み込む場合も同様です。まずは、AIを業務に取り入れる前に何を考慮する必要があるのかを考えてみます。

ExcelやGoogleスプレッドシートなどの表計算ソフトは、データの集計から分析、可視化までを幅広く効率化できる優秀なツールです。しかし、調剤時の単純な整数の計算(1日3錠×28日分など)をする時に、わざわざ表計算ソフトを開く人はいないと思います。なぜなら、目の前に電卓があるなら電卓を叩いたほうが早いですし、そもそもこの程度なら簡単に暗算できてしまうので、わざわざ表計算ソフトを開く必要がないのです。

このように、どれだけ性能が高いツールであっても、全ての業務を代替できるわけではありません。表計算ソフトで大幅に効率を上げられるタスクもあれば、逆に効率が悪くなってしまうタスクもあります。ですから、新しいツールを導入する際は、「本当にその業務に必要かどうか」から検討しなければなりません。

薬局内でAIを業務に取り入れる際も同様です。まずは本当にAIが必要なのか、どの程度業務が効率化できるのか、そして投資額に対してどの程度の利益になるのかを、慎重に検討しなければなりません。

例えば、以下の機能が搭載された「AI薬歴」を考えてみましょう。

  • 過去の薬歴、現病歴・既往歴、検査結果、併用薬・サプリメントなどの基本情報から、今回の服薬指導で確認すべき項目を抽出する
  • 服薬指導の内容を音声入力(録音)→リアルタイム文字起こしが可能
  • 文字起こしの内容を要約し、SOAP形式(もしくはユーザーが指定した形式)で出力する

仮に、「タイピングに自信がない」「文章の内容を考えたり、推敲したりするのに時間がかかる」という薬剤師が、薬歴の記入だけで毎日1時間の時間外労働をしていたとしましょう。もちろん出力内容を薬剤師が確認することは大前提ですが、音声入力→AIによる文字起こし→AIによる要約というステップがほぼリアルタイムで完了する場合、この薬剤師の薬歴の記入にかかる時間は内容の確認と軽微な修正のみとなり、薬歴に関する時間外労働は、ほぼゼロになる可能性があります。

1日あたりの時間外労働が1時間短縮されれば、20日で20時間短縮でき、さらに同様の薬剤師が3人いた場合は、20日で60時間短縮できることになり、AIを導入するインパクトとしては十分です。あとは実際に導入にかかる費用と削減できる費用とを天秤にかけ、追加で薬剤師のワークライフバランス等の「費用以外の部分」も考慮した上で、最終的に導入するかどうか決定しましょう。

調剤薬局で活躍するAIは生成AIだけではありませんが、最も身近かつ気軽に試すことができるのが生成AIなので、まずは「生成AIでどんなことができるのか」を実際に経験してみると良いでしょう。特にGeminiやNotebookLMであれば無料プランでも十分実用できますし、Google AI Studioにアクセスすれば、画像生成や音声生成も十分に体験できます。

実際に「生成AIでこんなことができます」という内容をまとめたものを以下のページに掲載しています。参考になれば幸いです。

生成AIは非常に便利ですが、いくつか注意点もあります。

  • チャットに個人情報や機密情報を入力しないこと
    単純に、情報漏洩につながります。具体的な調剤薬局内のデータを活用するならば、あらかじめ氏名や生年月日の部分をIDで匿名化するなどして、個人が特定できないように加工しておきましょう。
  • ハルシネーションに注意
    事実とは異なる情報や架空の情報を、あたかも正確であるかのように出力してしまう現象です。出力内容は、必ず自分の目で確かめてから活用するようにしましょう。
  • 「シャドーAI」を可能な限り減らす
    シャドーAIは、会社の承認なしに(生成)AIツールを業務で使う行為です。シャドーAIの常態化により、先ほど触れた情報漏洩などのリスクが増えることになります。
    持ち込める端末を物理的に制限するなどしない限りは、100%把握するのは難しいですが、可能な限り「誰が」「どのような用途で」「どの端末で」「どの生成AIを使用しているか」を把握しておくようにしましょう。

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