AIで薬学部のOSCE対策ができる時代になる?

プレスリリース:薬学教育の新時代へ 東京薬科大学とトランスコスモス、AI対話学習基盤の共同開発を開始 薬学教育の臨床教育における基礎学修・患者応対・継続学習支援の実装を推進|プレスリリース|ニュース&トピックス – 2026年度|東京薬科大学

こちらのプレスリリースによると、東京薬科大学とトランスコスモスは、トランスコスモスの音声対話型生成AIサービス「trans-AI Tutor」を薬学生・薬剤師向けに最適化すると発表しました。
2026年11月のリリースを目標に、まずは東京薬科大学の4年次生を対象としたパイロット運用の準備を進めているとのことです。

今回は、この薬学生・薬剤師向けに最適化される「trans-AI Tutor」について詳しく見ていきます。

trans-AI Tutorとは

元々はコールセンター用のAIで、様々な人物像を演じられる

trans-AI Tutorは元々薬学教育を目的として開発されたシステムではなく、トランスコスモスがコールセンターのオペレーター教育を効率化するために開発したシステムのようです [1] 。

trans-AI TutorのAIは、年齢、性別、口調、感情などの細かい設定が可能とのことで、例えば「大人×怒り×女性のパターン」「高齢×興味×男性のパターン」のような相手を想定したロールプレイができ、さらにロールプレイ後には評価・フィードバックも担当してくれるシステムであるとされています [1] 。

trans-AI Tutorは、自動評価・フィードバックも可能?

学修状況の可視化とフィードバック設計:コンタクトセンター運営で培った応対品質管理とフィードバックの知見をAI評価軸に組み込み、学修状況の可視化と即時フィードバックを実現


東京薬科大学プレスリリース「薬学教育の新時代へ 東京薬科大学とトランスコスモス、AI対話学習基盤の共同開発を開始 薬学教育の臨床教育における基礎学修・患者応対・継続学習支援の実装を推進」
https://www.toyaku.ac.jp/newstopics/2026/0911_7446.html” より一部引用

薬学生・薬剤師向けのtrans-AI Tutorに話を戻すと、プレスリリースの記述を見る限り、おそらくAI側がコミュニケーションの自動評価とフィードバックをする設計であると推察できます。

この設計自体は良いと思いますが、過去のAI(LLM)模擬患者の研究では「過度に同意する」「相手に説得されやすい」「フィードバックが過度に肯定的」「重要な弱点を指摘しない」「事実誤認を含む出力が生じうる」といった問題が報告されていることを踏まえると [4] 、trans-AI Tutorの評価部分にLLMが介入するのであれば、人間による評価との一致度も検証しておく必要があるでしょう。

先行研究によると…

1. Monash大学が開発した「ATLAS」

Monash大学が開発した「ATLAS」は、薬学部の学生が生成AIの患者アバターとリアルタイムで会話し、終了後にフィードバックを受けられるシステムです [2] 。
前年度OSCEからのコミュニケーションの得点の変化を見ると、ATLASを利用した188名では中央値+1.55点(p = 0.0045)、非利用者273名では有意差は確認されませんでした。また、3回以上ATLASを利用した学生は、非利用者よりOSCEの得点が高くなる傾向がありました [2] 。

ただしこの研究では、ATLASを利用した学生グループのほうがもともと前年の成績も高く、「OSCEに対して意欲がある学生ほどATLASを使った」という自己選択バイアスが存在する点には注意が必要で、著者らもこの結果はあくまで「関連性の根拠」と位置づけています [2] 。

また、ATLASを利用してアンケートに回答した学生200人のうち、73.5%が「共感や微妙なコミュニケーション能力を身につけるには、仲間や指導者との対面練習のほうが効果的」と回答しています [2] 。
ゆえに、ATLASは実際の対面練習に臨む前の反復練習として活用するのが合理的といえるかもしれません。

2. GPT-4oを患者役にした研究

2026年8月には、University of GeorgiaからGPT-4oを患者役にした研究も報告されています [3] 。
この研究では146名中117名が全調査を完了し、服薬指導に関する7領域すべてで自信(自己評価)が改善されました [3] 。

一方、ボディーランゲージや積極的傾聴においては、1回目の評価では有意な改善が見られたものの、2回目は有意差が確認されませんでした。

これらの示唆をまとめると

両研究とも、「AI患者を使ったロールプレイは、反復可能なコミュニケーションの練習に対しては有用であるものの、人間相手の練習でしか習得できないような「共感」「ボディーランゲージ」「積極的傾聴」などの練習を十分置き換えられるとはいえない」という方向で一致しています。

本当の意味で「薬学的知識に乏しい」患者さんを演出できることが重要

trans-AI Tutorのモデルがどのようなものなのかは現時点では分かりませんが、東京薬科大学版のtrans-AI Tutorのモデルには、何らかの「薬学的知識」が与えられる可能性があります。

というのも…

実務実習前の実践的臨床能力の養成:患者ペルソナを柔軟に設定できるロールプレイと、教員監修によるモデル・コア・カリキュラム準拠のシナリオにより、実践的臨床体験を反復練習できる環境の整備


東京薬科大学プレスリリース「薬学教育の新時代へ 東京薬科大学とトランスコスモス、AI対話学習基盤の共同開発を開始 薬学教育の臨床教育における基礎学修・患者応対・継続学習支援の実装を推進」
https://www.toyaku.ac.jp/newstopics/2026/0911_7446.html” より一部引用

プレスリリースにこのような記述がされており、さらに患者の年齢・性格・既往歴などを設定したうえで情報収集や情報提供を練習するとされているので、モデルが一定の薬学的知識を習得していないと練習が成立しないと考えられます。
また、そもそも基盤モデル(例えばGPT等)自体が医学・薬学系の専門知識を大量に学習している可能性も考慮すると、trans-AI Tutorに搭載されるモデルは、薬学生や薬剤師よりはるかに多い薬学的知識を持っている可能性が高いです。

恐らく、trans-AI Tutorのシステム側でそのあたりは対策されているとは思いますが、学生の「あなたは本当はこの薬がACE阻害薬だと知っていますよね?」という発言に対して、うっかり「はい」と答えてしまうことがないような堅牢な設計が求められるでしょう。

今回の話をまとめると

東京薬科大学とトランスコスモスが開発している薬学生・薬剤師向けの音声対話型生成AI「trans-AI Tutor」は、年齢、性別、口調、感情などの細かい設定が可能で、ロールプレイ終了後はAI側がコミュニケーションの自動評価とフィードバックをする設計になっていると思われます。

ただし先行研究から考えると、AI患者を使ったロールプレイは反復可能なコミュニケーションの練習に対しては有用であるものの、人間相手の練習でしか習得できないような「共感」「ボディーランゲージ」「積極的傾聴」などの練習を置き換えるのは難しいと考えるのが妥当でしょう。


参考資料

[1] Cotra(トランスコスモス株式会社)「生成AIロールプレイングシステム「trans-AI Tutor」」
https://www.transcosmos-cotra.jp/case_study/trans-ai-tutor

[2] Lim, A et al. (2026). Using an educator-guided generative artificial intelligence (GenAI) tool for developing communication skills in undergraduate pharmacy students. Currents in Pharmacy Teaching and Learning, 18(9), 102675.

[3] Sarah T et al. (2026). Impact of Artificial Intelligence Chatbots on Student Confidence and Perceptions in a Communication Course. American Journal of Pharmaceutical Education, 90(11), 102068.

[4] Cook, D. A. et al. (2025). Virtual Patients Using Large Language Models: Scalable, Contextualized Simulation of Clinician-Patient Dialogue With Feedback. J Med Internet Res. 2025;27:e68486.

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