生成AIにタスクを丸投げすることで、失うものは何か
元論文:Relying on AI at work reduces self-efficacy, ownership, and meaning while active collaboration mitigates the effects – Scientific Reports
今回の研究は、仕事で生成AIを使うことが、働く人の心理にどのような影響を与えるかを検討したものです。
研究の方法
1. 参加者とタスク内容
参加者(最終的な主要解析対象は269人)はProlific Academicというプラットフォームで募集され、コンサルタント、データアナリスト、人事担当者、管理職、マーケターなど、様々な職種の方々が参加しています。
実験では、職種に応じた10分間のライティングのタスクが、「Primary Task」→「Subsequent Manual Task」の順で実施されました。
まず「Primary Task」では、参加者は以下の3種類の条件にランダムに振り分けられます。
- No AI Use:AIを使わず、自力でライティングする
- Copy and Paste AI:AIが生成した内容を修正せず、そのまま使う
- First Human Then AI:まず自分で下書きを作成し、その後AIでレビュー・編集を行う
その後、全員がAIを使わずに作業するSubsequent Manual Taskに取り組みました。これにより、AIを使った直後の影響だけでなく、AIを使わない作業に戻った後でも影響が残るかを検証しています。
2. 評価
主要な評価項目は、以下の3点です。
- 自己効力感:「AIなしでも同様の仕事をうまく遂行できる」と、どの程度自信が持てるか
- 心理的所有感:成果物に対して「これは自分のものだ」と、どの程度感じられるか
- 仕事の意味:「タスクは意味があるもの、価値があるものだ」と、どの程度感じられるか
追加で、タスクに取り組むことの楽しさと成果物への満足度も測定されました。
いずれの項目も、主に7段階評価となっています。
結果
1. AIに丸投げすると、「自分でできる感覚」が低下する傾向があった

Figure 1:Primary Taskの直後の変化
Reprinted from Lee et al. (2026), Fig. 1, without modification. Licensed under Creative Commons Attribution-NonCommercial-NoDerivatives 4.0 International License(CC BY-NC-ND 4.0)
Primary Taskの直後では、以下のような傾向が確認されました。
- 自己効力感:Copy and Paste AI群では、No AI Use群と比べて自己効力感が低くなった(p < 0.001)。一方、First Human Then AI群とNo AI Use群には有意差が確認されなかった。
- 心理的所有感:Copy and Paste AI群は、他の2群より心理的所有感が低くなった(p < 0.001)。一方、First Human Then AI群とNo AI Use群には有意差が確認されなかった。
- 仕事の意味:Copy and Paste AI群は、他の2群より心理的所有感が低くなった(p = 0.002)。一方、First Human Then AI群とNo AI Use群には有意差が確認されなかった。
つまり、AIを使うことそのものではなく、「AIに丸投げする使い方が、自己効力感・心理的所有感・仕事の意味の低下と関連していた」と解釈することができます。
2. 2回目の手作業後も、自己効力感と仕事の意味の低下は残った

Reprinted from Lee et al. (2026), Fig. 2, without modification. Licensed under Creative Commons Attribution-NonCommercial-NoDerivatives 4.0 International License(CC BY-NC-ND 4.0)
全員がAIを使わずに作業をするSubsequent Manual Task直後の変化を見てみると、Copy and Paste AI群とNo AI Use群の間で、以下のような傾向が確認されました。
- 自己効力感:1回目にCopy and Paste AI群だった参加者は、2回目にAIなしで作業した後もNo AI Use群より低くなる傾向があった(p < 0.001)
- 心理的所有感:各条件間で有意差なし(回復傾向があった)
- 仕事の意味:1回目にCopy and Paste AI群だった参加者は、2回目にAIなしで作業した後もNo AI Use群より低くなる傾向があった(p = 0.017)
つまり、「AIに丸投げする使い方をすることによる自己効力感と仕事の意味の低下は、AIを使わない作業に戻った後も残る可能性がある」ことが示唆されました。
3. AI→手作業に戻ると、楽しさと満足度が低下した

Reprinted from Lee et al. (2026), Fig. 3, without modification. Licensed under Creative Commons Attribution-NonCommercial-NoDerivatives 4.0 International License(CC BY-NC-ND 4.0)

Reprinted from Lee et al. (2026), Fig. 4, without modification. Licensed under Creative Commons Attribution-NonCommercial-NoDerivatives 4.0 International License(CC BY-NC-ND 4.0)
Primary Taskの直後の成果物への満足度と課題の楽しさを見てみると、以下のような傾向がありました。
- 成果物への満足度:Copy and Paste AI群で最も高くなり、全ての群の組み合わせにおいて有意差が確認された。
- Copy and Paste AI vs No AI Use:p < 0.001
- Copy and Paste AI vs First Human Then AI:p = 0.043
- First Human Then AI vs No AI Use:p = 0.004(First Human Then AI群の方が高い)
- 課題の楽しさ:Copy and Paste AI群で最も高くなり、Copy and Paste AI群とNo AI Use群の間で有意差が確認された(p = 0.020)。
この結果から、AIに丸投げする使い方は短期的に見ると「楽しい」「成果物に満足できる」と感じさせる可能性があります。
一方で、Subsequent Manual Taskの直後になると、以下のように変化しました。
- 成果物への満足度:Primary TaskがCopy and Paste AIだった群で最も低くなり、First Human Then AI vs No AI Use以外の組み合わせにおいて有意差が確認された。
- Copy and Paste AI vs No AI Use:p < 0.001
- Copy and Paste AI vs First Human Then AI:p < 0.001
- 課題の楽しさ:Primary TaskがCopy and Paste AIだった群で最も低くなり、First Human Then AI vs No AI Use以外の組み合わせにおいて有意差が確認された。
- Copy and Paste AI vs No AI Use:p = 0.002
- Copy and Paste AI vs First Human Then AI:p = 0.003
これらの結果から著者らは、「AIに作業を丸投げすることによるスピードや質を経験した後で手作業に戻ることで、手作業がより面倒で報われないものに感じられる可能性があった」と解釈しています。
注意点
- 参加者はAIツールを調査画面外の別のブラウザで使用していたため、プロンプトの内容やAIとのやり取りのタイミング、細かい操作履歴などは十分に記録できていないため、どのようなAIとの関わり方が心理的変化を生んだのかなどは、検証されていません。
- First Human Then AIの条件は「まず人間が書き、その後AIが編集する」という1種類に限定されています。
- 参加者のAIに関する熟練度や「どの程度活用できるか」などは、測定されていません。
AIで自分の責任を見失わないように…
例えば薬局で「AI薬歴」を導入した場合、極端な話今回のCopy and Paste AI群のような使い方をして薬歴を記録することも技術的には可能と思われます。
ただ、このような使い方が自己効力感・心理的所有感・仕事の意味の低下と関連していたことを踏まえると、あまり好ましい運用の仕方とは言えないでしょう。薬歴は次回の処方監査や服薬指導に影響を与える文書ですから、そのような文書を「自己効力感・心理的所有感・仕事の意味が欠けた状態」で記録してはなりません。
今回のFirst Human Then AIのように「薬剤師が下書きして…」という流れを組み込むのは難しいかもしれませんが、それでも薬剤師自身が薬歴の内容を評価し、自身の責任のもと判断して修正・確定するプロセスを組み込んで、薬剤師が「これは自分が責任を持って記録した薬歴である」と感じられるワークフローにしておくことが必要です。
AIが使えなくなっても、生活の質が維持できるように
以前、「もし、生成AIが4日間使えなくなったら…」という記事を投稿しました。この記事の元論文(Oh et al., 2026)では、参加者から以下のような意見が挙がったと報告されています。
- 生成AIなしの仕事は「食洗機やロボット掃除機がない生活」「コンビニがない生活」「車がない生活」あるいは「GoogleやWordがない状態」のようで、非常に不便になった。
- 文章の理解や文章の改善に追加で時間をかける意欲が低下し、「完璧でなくてもよい」という方向に基準を下げてしまった。
- 生成AIの支援がなくなることで、課題提出の延期や「回避」が起きた
- 生成AIの使用を当然と位置づける職場環境・社会の雰囲気も相まって、より生成AIに依存してしまう。
今回の論文(Lee et al., 2026)でも「AIに作業を丸投げすることによるスピードや質を経験した後で手作業に戻ると、手作業がより面倒で報われないものに感じられる可能性があった」と解釈されていますが、現代のAIが高性能であることも踏まえると、普段AIを活用している人がAIなしの環境に置かれた場合、多くの人はすぐに適応するのが難しいことが予想されます。
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「AIが急に使えなくなるなんてことはそうそう起こらない」と思われるかもしれませんが、実際にClaude Fable 5は突然使えなくなりましたから、自分が贔屓にしているAIツール(や特定のモデル)が使えなくなる可能性は常に想定しておかなければなりません。
特に調剤薬局の業務でAIツールを積極的に活用しているのであれば、そのツールなしでも業務が滞りなく進むように、対策をスタッフ間で共有しておきましょう。
参考資料
[1] Oh, E et al. (2026). “Oops! ChatGPT is temporarily unavailable!”: A diary study on knowledge workers’ experiences of LLM withdrawal. In Extended Abstracts of the 2026 CHI Conference on Human Factors in Computing Systems (CHI EA ’26). ACM.