OpenAIの「Trusted Contact」は、必要な人に届くのか

情報元:OpenAI「Introducing Trusted Contact in ChatGPT」
https://openai.com/index/introducing-trusted-contact-in-chatgpt/

OpenAIは2026年5月7日、ユーザーにメンタルヘルスに関する懸念が生じた際に、信頼できる人物に通知することができる機能「Trusted Contact」がChatGPTに追加されることを発表しました。

Trusted Contactの概要

Trusted Contactは、ユーザーが深刻な自傷行為や自殺を示唆する会話を行った際、事前に登録した家族・友人・介護スタッフなどに通知を送ることができる、安全対策機能です。
この機能は18歳以上のユーザーが任意で設定できるオプション機能で、自分が危機的状況に陥ったときに通知を受け取る「信頼できる相手」を1人登録することができます。

OpenAIは、Trusted Contactを「現実世界の人間とのつながりを補助する安全機能」として位置付けています。

Trusted Contactの通知の流れ

公式ブログによると、おおまかな流れは以下のようになっています。

  1. ユーザーがTrusted Contactを設定
  2. 通知される相手側が、1週間以内に承認
  3. ChatGPTが深刻な自傷行為や自殺を示唆する会話を検出
  4. ChatGPTが本人に対し、指定した連絡先に相談するよう促す
  5. 訓練済みレビュー担当者が内容を確認
  6. 必要と判断された場合のみ通知を送信

つまり、ChatGPTが自動で通報まで完了させるわけではなく、訓練された人間の担当者による評価を挟む設計になっています。
また、通知されるのは「深刻な安全上の懸念が検知された」という内容のみで、具体的な会話の内容までは共有されない仕組みです。

この機能の背景は…

この機能は、2025年以降OpenAIが進めていた「精神的危機への安全対策の強化」の延長線上にあると考えられます [1] [2] [3] 。
特に2025年には、ChatGPTに長期間相談していた10代のユーザーが自殺した事例が大きな社会問題となり、OpenAIは保護者向け通知機能や緊急連絡先機能を検討していました [3] 。

Trusted Contactは、その流れを成人ユーザー向けに拡張したものと考えられます。

OpenAIの考え方

ブログ記事全体で強調されているのは、AIだけで完結させないという考え方です。
AIが孤独を埋めるのではなく、「AIが現実の人間関係へ橋渡しする」という方向に舵を切っていることが読み取れます。

これは、AIに過度に依存したり、AIを唯一の相談相手にしてしまったり、長時間にわたる会話によるAIへの没入感が現れたりすることへの対策としても理解できます。


問題は、このサービスが必要となる方々に届くかどうか

先述の通り、Trusted Contactは、ChatGPT上で深刻な自傷リスクが疑われるやりとりが検知された場合に、あらかじめ登録した信頼できる相手に通知することができる機能ですが、この機能はユーザー自身が事前に設定し、相手側も承認する必要があります。

この仕組み自体はもちろん必要なものですが、同時にTrusted Contactの導入のプロセスにおいて、最も大きな壁にもなりえます。

社会的孤立は自殺リスクを高める要因の1つとされている

CDCによると、社会的孤立は自殺リスクを高める要因の一つとされ、反対に家族・友人・パートナーからの支援や、他者とつながっている感覚があることは保護因子とされています [4] 。

【注意】
「自殺リスクが高い人は必ず社会的に孤立している」という因果関係を示しているわけではないことに注意が必要です。

この観点から見ると、Trusted Contactは、既に信頼できる人間関係を持っているユーザーにとっては有用な機能になりえます。しかし、相談できる相手がいない人、身近な人に知られたくない人、そもそも誰を登録すればよいか思い浮かばない人、要するに本来Trusted Contactの機能が必要となりうる方々ほど、Trusted Contactの導入が難しい可能性があります。

そもそも、支援を求めていない可能性もある

別の研究では、自殺念慮を抱える人の多くは、そもそも専門的支援を求めていないことが示唆されています [5] 。その背景には、「自分で何とかしようとする傾向」「治療や支援の必要性を感じにくい」「メンタルヘルスや自殺に関する偏見」などの考えが潜んでいます [5] 。

また、メンタルヘルス上の問題を他者に知られることへの不安も、他者への助けを求めることを妨げる要因とされています [6] 。
Trusted Contactは会話内容そのものを共有しない設計ですが、それでも自分が危機的状態にあると誰かに通知される可能性がある以上、設定をためらう人は少なくないはずです。

実は、ChatGPT上で既存の窓口に誘導する仕組み自体は存在します

Trusted Contactは、誰でも生成AIを活用できる現代において必要な安全対策であることは間違いありません。しかし、メンタルヘルスの危機にある人の中には、相談相手がいない人、身近な人に知られたくない人、電話で話せない人、専門職の支援が必要な人、すでに緊急対応が必要な人も含まれます。

ゆえに、そもそもTrusted Contactの設定自体のハードルが高い方には、専用の匿名相談窓口にChatGPT上で誘導できるような仕組みがあることが望ましいと考えられますが、実は既にそのような仕組みが一部実装されています [7] 。
具体的には、メンタルヘルス上の苦痛や自傷リスクが疑われる場面で、地域に最適化された相談窓口・ヘルプラインを提示する仕組みが搭載されており、OpenAIによると、その窓口は無料・匿名かつ秘密は保持しながら利用可能なものとして案内されています [7] 。

一方で、これはまだ「匿名相談、細分化された地域の窓口、専門職への接続、緊急対応を個別に最適化して接続する、総合的な支援ナビ」とまでは言いにくい仕組みです。現状では、相談窓口への案内機能はあるものの、国や地域ごとの支援制度に深く接続する仕組みではないと見るのが適切でしょう。

問題を根本的に解決できるのは、AIではなく

重要な前提として、AIへの依存も含めたメンタルヘルスの問題は、AIだけで解決できるものではないことを理解しておかなければなりません。

メンタルヘルス領域では、本人が自分の状態を正確に把握できないこともありますし、仮にAIとの対話によって一時的に安心感を得られても、問題が根本的に解決するわけではありません。
むしろ、AIが唯一の相談相手になってしまうと、現実世界における支援につながる機会を逃してしまう可能性もあります。

ゆえに、AIはユーザーのすべての苦痛を抱え込むのではなく、必要に応じて人間の支援につなぐシステムであるべきだと私は考えています。
このような立ち位置にAIを置くことで、最終的にはユーザーを人と社会につなぎ直すための補助役となれるかもしれません。


参考資料

[1] OpenAI「メンタルヘルスに関する取り組みの最新情報」
https://openai.com/ja-JP/index/update-on-mental-health-related-work

[2] OpenAI「人々が最も必要としているときに支援」
https://openai.com/ja-JP/index/helping-people-when-they-need-it-most

[3] TheVerge「OpenAI will add parental controls for ChatGPT following teen’s death」
https://www.theverge.com/news/766678/openai-chatgpt-parental-controls-teen-death

[4] CDC「Risk and Protective Factors for Suicide」
https://www.cdc.gov/suicide/risk-factors/index.html

[5] Han, J., Batterham, P. J., Calear, A. L., & Randall, R. Factors Influencing Professional Help-Seeking for Suicidality: A Systematic Review. Crisis, 2018.

[6] Clement, S., Schauman, O., Graham, T., et al. What is the impact of mental health-related stigma on help-seeking? A systematic review of quantitative and qualitative studies. Psychological Medicine, 2015.

[7] OpenAI「Crisis Helpline Support in ChatGPT」
https://help.openai.com/de-de/articles/12677603-crisis-helpline-support-in-chatgpt

コメントを残す

薬剤師のためのAIノートをもっと見る

今すぐ購読し、続きを読んで、すべてのアーカイブにアクセスしましょう。

続きを読む