アドバイス15:生成AIは、人間の薬剤師を完全に代替できるわけではありません
薬剤師界隈に限った話ではありませんが、よく「人間の仕事がAIに置き換わるのか」といった議論がなされている印象を受けます。確かに生成AIを見ていると、まるで人間とコミュニケーションを取るようなイメージで様々なタスクをこなしてくれるので、人間の仕事がAIに代替されてしまいそうな気がしてしまいますが、実際はそう簡単な話ではありません。
生成AIの知識量は凄まじいですが
大前提として、純粋な知識の量を比較すると、人間が生成AIに太刀打ちすることはできないでしょう。生成AI(の中のモデル)は、世の中に大量に存在している膨大な種類の大量のデータを学習しており、その学習内容を忘れることもありません。
ゆえに、明確にルールが決まっているような業務(処方箋の記載内容の確認、処方中の相互作用の確認など)は、生成AIが得意とする領域になります。
一方で、その判断の結果を受けて臨機応変に対応してもらうとなると、少々力不足になります。例えば、相互作用チェックの結果「併用注意」と判定された場合、マニュアル通り対応するならば疑義照会すべきです。しかし実際の現場では、全ての併用注意の事例において疑義照会が実施されているとは限りません。患者さんの状態や相互作用の内容、そして処方医の考えなどの要素が複雑に絡み、最終的に疑義照会の必要性が判断されます。
これらの内容は調剤薬局によって判断基準が異なり、明確なマニュアルがあるわけではないので、生成AIに適切に学習させることが難しい領域です。加えて、判断の誤りは患者さんの健康被害などのリスクにも繋がります。
以上の内容を踏まえると、明確にルールが決まっている定型業務をAIに補助してもらい、患者さん対応をはじめとした精密なマニュアル化が難しい業務や、患者さんの健康に影響を及ぼす可能性がある業務は人間主導で実施する、といった形で協働するのが現実的と言えるでしょう。
AIと協働する場合の、人間の薬剤師の役割は
これは私個人の意見になりますが、薬剤師の「専門性」と言うと、ざっくり正確な知識・正確な判断・正確な行為の3つが重要視されているように感じます。
もちろん、これらの3点は薬剤師である以上必要なものなのですが、
- 知識量は生成AIの方が圧倒的に多い
- 生成AIは瞬時に大量の選択肢を用意でき、学習データから様々なケースの判断を提案できる
少々極端ですが、実際このような段階に突入しています。
ゆえに、AIが本格的に進化した後の人間の薬剤師の役割は、「なぜこのAIの判断を採用するのかを、EBMの観点から社会的に成立する形で説明すること」になるかもしれません。
「社会的に成立する」というのは、患者さんの背景(例えば、立場・価値観・思想や信条・これまでの経験など)を考慮した上で、人間の薬剤師がAIの回答を適切に変換して患者さんに説明し、その内容を患者さんが正確に理解した状態を指します。
ゆえに、このような説明を社会的に成立させるためには、先ほど申し上げたように患者さんの表情や仕草・声のトーンを確認し、実際に患者さんが理解、そして納得されているかどうかを適宜判断しながら服薬指導を実施しなければなりません。
どれだけAIが進化したとしても、この仕事は人間の薬剤師にしかできない、大事な仕事です。
