AIに「性格」を与える研究

Psychologically Enhanced AI AgentsWe introduce MBTI-in-Thoughts, a framework for enhancing thearxiv.org

AI(エージェント)に「性格」を与えることで、行動や出力が大きく変わる可能性が示唆された、という論文です。この研究では、MBTI(16パーソナリティ)の枠組みをヒントに、AIに性格を「埋め込む」方法を提案しています。研究チームはこれを MBTI-in-Thoughts(MiT) と名付けました。

なお、誤解のないように補足しておきますが、実際にAIに「性格(心)が宿った」と主張しているわけではなく、人間側がプロンプトで「この性格のように振る舞ってください」と指定したに過ぎません。

MBTIの16タイプとは?

Personality Types | 16PersonalitiesExtensive, research-backed profiles of 16 personality types:www.16personalities.com

MBTIは4つの軸を組み合わせた16種類の性格モデルです。

  • 外向(E)– 内向(I):人との交流でエネルギーを得るか、一人で「充電」するか。
  • 感覚(S)– 直観(N):事実に重きを置くか、可能性やアイデアを重視するか。
  • 思考(T)– 感情(F):論理で判断するか、人の気持ちで判断するか。
  • 判断(J)– 知覚(P):計画的に進めたいか、柔軟に流れに任せたいか。

この組み合わせで次の16タイプができます。今回の研究では、この性格づけをAIに適用したことで、出力の傾向が「人間の性格の違い」のように大きく変化しました。

性格を与える手段は、シンプルにプロンプトのみ

「あなたは内向的で、感情を大事にするタイプです」といったプロンプトを追加して、回答の内容の変化を観察します。先述のMBTIのタイプ(16種類)ごとにプロンプトを用意し、実際に性格診断テストをAIに受けさせて確認しました。

どんな違いが出たのか?

  • 物語生成タスク
    感情タイプ(F)は、より感情的でハッピーエンドの物語を生み出しました。特にINFPやINFJでは共感的な文章が目立ちました。
  • ゲーム理論課題(囚人のジレンマなど)
    思考タイプ(T)は裏切り戦略を多用し、感情タイプ(F)は協力的な選択が多い傾向が見られました。まるで「冷酷な戦略家」と「共感的な仲裁者」のようです。
  • マルチエージェントの協調推論
    AI同士をチームにして議論させる実験では、「まず自分で考えてから議論する(内省から対話)」方式が一番良い成果を出しました。

この研究から学べるのは、「AIの性格をタスクに合わせて選べる」という発想です。

  • 共感的な対話や物語には Feeling(感情)タイプ
  • 論理的な推論や交渉には Thinking(思考)タイプ
  • 柔軟な発想や創作には Perceiving(知覚)タイプ

さらに、チームとしてAIを動かすときは、性格の多様性を持たせると偏りが減る、という示唆も得られました。

この研究に関する注意点

興味深い研究ではありますが、以下の点には注意しておく必要があります。

  • MBTIの科学的根拠は限定的であること
  • 評価に「AIがAIを採点する方式」を多用しているため、バイアスの可能性が残ること
  • まだ文章タスク中心で、マルチモーダル(画像、音声、動画など)応用はこれから

それでも、AIに「性格」を付与して制御するという試みは、新しいAIの設計思想を示していると言えるかもしれません。

人間とAIの協働にむけたヒントになるか

今回の結果は、ある意味「人間の直感とも大きく乖離しない結果」と言っていいでしょう。「人間でトライすると、恐らくこうなるだろう」という想像とほぼ同じような結果が、AIを用いた研究でも得られたということになります。

ただ、どのようなケースでも「性格を付与する」ことが有効とは限りません。AIエージェントがチームで動いて、アイデアを出したりまとめたりするようなケースであればとても有益ですが、回答の一貫性が求められる局面では、逆に性格の付与がノイズになる可能性があります。

例えば、調剤薬局のAIエージェントを考えるとどうでしょうか。今後の技術の進歩で、疑義照会やトレーシングレポート、薬歴の内容をリアルタイムに更新してくれるようなAIエージェントが実装される未来が来るかもしれませんが、これらの書類は客観的事実に基づいて記載されるべき書類なので、推測や想像は可能な限り排除しなければなりません。

そうなると、さまざまな性格のAIよりは、ある程度ルールに従って回答するようチューニングされたAIや、一貫性のある回答をしてくれるRAGを活用したAIの方が、導入しやすいと考えられます。
それでもあえて性格を設定するならば、「ブレない判断」をしてくれそうなThinking(T)や Judging(J)の性格を設定するのが良いかもしれません。

では、どのような時に性格を付与したAIが役立つでしょうか。恐らく、以下のようなケースで活躍するでしょう。

①自由な創作や発想が求められる場面

小説のアイデア出しや広告コピーの発想など、柔軟さが求められる仕事では Perceiving(P)寄りのAIが活躍できそうです。ルールに縛られすぎず、ユニークな視点を持ち込んでくれるので、クリエイティブな領域との相性が良いでしょう。

②交渉・戦略・意思決定

Thinking(T)や Judging(J)の性格を持たせたAIが有効と考えられます。研究でも、Tタイプはゲーム理論で一貫した戦略を選ぶ傾向が示されました。プロジェクトの工程管理やリスク分析では、こうした性格が強みになるでしょう。

③チームでの会議や意思決定

複数のAIを「チーム」として動かす場合、性格がバラけていた方が良いでしょう。FeelingタイプとThinkingタイプを混ぜると、「共感」と「論理」の両面が補完され、バランスの良い結論に近づきます。論文でも「内省してから議論する方式」が最も安定した成果を出しており、人間の会議運営にもヒントを与えてくれるでしょう。

④教育・トレーニング

学習者の性格や学習スタイルに合わせて、AIの性格を変えるのも、ありかもしれません。シーンごとに先生役AIの性格を切り替えると、学習効果も高まるのではないでしょうか。

このように使い分けることで、最高のパフォーマンスを発揮してくれる可能性が高まります。
今回の研究ではプロンプトで指示しただけなので、我々でも比較的簡単に再現できるかもしれません。今度トライしてみようと思います。

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