「デジタル社会の実現に向けた重点計画:医療DXの推進」を読む

デジタル社会の実現に向けた重点計画|デジタル庁

こちらのページには、2026年7月21日に閣議決定された「デジタル社会の実現に向けた重点計画」に関してまとめられています。
今回は、この中の「医療DXの推進」という項目に関して詳しく見ていきましょう。

資料の解説

1. 電子カルテを標準化し、医療情報を全国で共有しやすくする

安全な全国データ連携基盤を構築し、質の高い効率的な医療の提供を実現するため、医療機関の情報システムのクラウドネイティブ化を進める。

(中略)

令和9年度以降は、共有可能な情報の拡大(医療介護の連携、歯科医療機関や薬局が有する情報の活用等)及びマイナポータルを活用した利便性向上に係る検討を進め、運用状況を踏まえつつ更なる改善を図ることや、医療DXの基盤となるマイナ保険証の利便性の向上等を含め、全国医療情報プラットフォームの機能拡充等に取り組む。


デジタル庁「デジタル社会の実現に向けた重点計画」
https://www.digital.go.jp/assets/contents/node/basic_page/field_ref_resources/5ecac8cc-50f1-4168-b989-2bcaabffe870/208168e8/20260721_policies_priority_outline_03.pdf” より一部引用

この記述から、政府は医療機関ごとに異なる電子カルテをそのまま相互に接続しようとしているわけではなく、「データの形式」「システム間の接続方法」「電子カルテが備えるべき標準機能」「情報セキュリティ」「クラウド利用の要件」などといったルールを統一し、全国で情報を共有できる土台を作ろうとしているものと解釈できます。

また、共有可能な情報の検討対象として「薬局が有する情報の活用」が明記されている点も重要です。
現状の電子カルテ情報共有サービスは、主に医療機関側の診療情報を共有する発想がメインですが、将来的には薬局が持つ情報も全国医療情報プラットフォームの一部として活用されるようになる可能性があります。

2. 病院の情報システムをクラウドへ移行する

大病院を含む医療機関の情報システムのクラウドネイティブ化に向けて、電子カルテ・部門システムの連携のための標準インターフェイスの策定を進めるとともに、大病院向けのクラウドネイティブ型製品(電子カルテ、部門システム)の一体的・集中的な開発・普及支援を行う。

医療機関の情報システムのクラウド化が図られるまでの間においても、医療機関のネットワークの外部接続点の監視等による適正化の推進等を実施し、早急に対応すべき地域の拠点となる病院のサイバーセキュリティ対策の強化を図る。


デジタル庁「令和8年「デジタル社会の実現に向けた重点計画」_本文」
https://www.digital.go.jp/assets/contents/node/basic_page/field_ref_resources/5ecac8cc-50f1-4168-b989-2bcaabffe870/208168e8/20260721_policies_priority_outline_03.pdf” より一部引用

病院には、電子カルテ以外にも様々な部門・システムが存在します。
これらが個別に構築されて互換性も医療機関ごとに異なると、医療情報の共有や更新が難しくなるので、電子カルテと部門システムを接続する標準インターフェイス(業界共通で採用される規格)を整備し、病院システム全体をクラウド化しやすくする計画もされているようです。

一方で、クラウド化への移行自体は安全性を保証するものではありません。
資料でも、クラウド移行までの間は病院ネットワークの外部接続点(インターネットなどの外部ネットワークが交わる境界)を監視し、サイバーセキュリティを強化するとしています。

3. 電子処方箋をマイナポータルから薬局へ事前送付する

電子処方箋利用者のUX向上による利用促進を目的として、マイナポータルを活用した電子処方箋の薬局への事前送付の方策について、令和8年度中に必要な検討を行い、結論を得た上で、令和9年度以降に必要なシステム改修を行う。また、電子処方箋を含む医療DXの推進に合わせて、保健医療福祉分野において公的資格の確認機能を有する電子署名・電子認証を行う基盤である公開鍵基盤(HPKI)の継続的な安定稼働及び更なる普及に向けて令和8年度以降順次検討を進める。


デジタル庁「令和8年「デジタル社会の実現に向けた重点計画」_本文」
https://www.digital.go.jp/assets/contents/node/basic_page/field_ref_resources/5ecac8cc-50f1-4168-b989-2bcaabffe870/208168e8/20260721_policies_priority_outline_03.pdf” より一部引用

仕組みとしては、患者さんの意思に基づいて、電子処方箋管理サービスに登録された処方情報を希望する薬局に連携するようなイメージであると考えられます。
事前に処方箋のFAXや処方箋の写真を送ってもらう方法の場合は文字の判読が困難なケースもありますが、電子処方箋であればその心配はないと言って差し支えないですし、「原本」で処方内容を確認・調剤できる点も重要です。

ただし、事前送付された時点を正式な処方箋受付と扱うのか、患者さんが別の薬局を選び直せるのか、重複送信をどう防ぐのかなど、運用面のトラブルへの対策が必要になるでしょう。

4. マイナ救急で受診歴などを共有する

マイナ救急(救急隊員が傷病者のマイナ保険証を活用し、病院選定等に資する情報を把握する取組)の実施環境を引き続き整備するため、令和8年度、厚生労働省で構築を進めている救急医療情報連携プラットフォーム(救急隊が傷病者情報を複数の搬送先候補医療機関と迅速かつ安全に共有できるプラットフォーム)にマイナ救急で得られる受診歴などの情報を連携させるための取組等を推進する。

デジタル庁「令和8年「デジタル社会の実現に向けた重点計画」_本文」
https://www.digital.go.jp/assets/contents/node/basic_page/field_ref_resources/5ecac8cc-50f1-4168-b989-2bcaabffe870/208168e8/20260721_policies_priority_outline_03.pdf” より一部引用

マイナ救急は、救急隊員が傷病者のマイナ保険証を利用して受診歴や処方された薬などの情報を確認することで、傷病者がより適切な処置を受けられるようにするための取り組みです。
今回の計画によると、救急隊員が得た情報を、複数の搬送先候補の医療機関と迅速かつ安全に共有できるプラットフォームに連携させることを想定していることが読み取れます。

5. PHRを医療に活用する

地域の医療・介護連携等におけるライフログデータを含むPHRデータ活用に係る現場実証を実施し、有効なユースケースを創出するとともに、そのユースケースに関するクリニカルパス(より質の高い医療の提供を目的としたPHRデータを活用した治療・検査に関する工程表)の策定・検証を令和9年度までに行う。


デジタル庁「令和8年「デジタル社会の実現に向けた重点計画」_本文」
https://www.digital.go.jp/assets/contents/node/basic_page/field_ref_resources/5ecac8cc-50f1-4168-b989-2bcaabffe870/208168e8/20260721_policies_priority_outline_03.pdf” より一部引用

PHR(Personal Health Record)は、生涯にわたる個人の健康・医療に関わる情報のことを指します。具体的には、スマートウォッチやスマートフォンに記録された健康情報や、マイナポータルで閲覧できる受診歴・処方歴・特定健診の記録などが該当します。
従来の医療・健康に関する情報は医療機関ごとに管理されることが多かったといえますが、PHRは患者さん本人(個人)が主体となってデータを管理します。

PHRは診察だけでなく服薬指導においても有用な情報になり得ますが、入力の誤りやデータの欠損があればPHRの質は低くなりますし、使用する機器の性能や測定環境によって結果が大きく変わることもあります。
ゆえに、PHRをあまり鵜呑みにしないよう注意が必要です。

6. 予防接種データベースを整備する

令和8年6月に予防接種データベースを構築し、予防接種の実施状況や副反応疑い報告に係る情報等を匿名化した上で利用することを可能とするとともに、他の公的データベースと連結した利用を可能とした。当該データベースを活用し、予防接種の有効性・安全性に関する調査・分析を迅速かつ的確に行うとともに、第三者に対する情報提供を令和10年度以降に開始できるよう必要な検討を行う。


デジタル庁「令和8年「デジタル社会の実現に向けた重点計画」_本文」
https://www.digital.go.jp/assets/contents/node/basic_page/field_ref_resources/5ecac8cc-50f1-4168-b989-2bcaabffe870/208168e8/20260721_policies_priority_outline_03.pdf” より一部引用

恥ずかしながら、既に「予防接種データベース」が構築されていたことを知りませんでした。今後はほかの公的データベースと連結して、ワクチンの有効性・安全性を分析していく方針のようです。

ただし、このデータベースの整備によって、薬局で個人の接種履歴を自由に閲覧できるという話ではありません。
検討されるのは、匿名化データによる予防接種の調査・分析、および第三者に対する情報提供についてのみです。

7. 自治体検診をデジタル化する

自治体検診について、PMH(Public Medical Hub)の仕組みを活用したデジタル化を図り、令和8年度においては、歯周病検診、がん検診に加え、骨粗鬆症検診及び肝炎ウイルス検診を追加して、医療機関等における実証を行う。実証を通じて、自治体検診情報のデータ連携、マイナポータルの活用における課題や対応策を検討し、令和11年度からの全国展開を目指す。


デジタル庁「令和8年「デジタル社会の実現に向けた重点計画」_本文」
https://www.digital.go.jp/assets/contents/node/basic_page/field_ref_resources/5ecac8cc-50f1-4168-b989-2bcaabffe870/208168e8/20260721_policies_priority_outline_03.pdf” より一部引用

PMH(Public Medical Hub)は、自治体と医療機関などの間で、医療費助成や検診の情報などを連携する仕組みです。

現在のところ、薬局で上記の検診結果を閲覧できるようになるかは不明ですが、もし薬局でもこのような情報が把握できるようになった場合は、検診を受けていないハイリスクな患者さんに対する受診勧奨などを行えるようになるかもしれません。

8. マイナンバーカードを医療費助成の受給者証として使う

法律にその実施根拠がある公費負担医療や子ども医療費等の地方公共団体が単独で設けた医療費等の助成制度の受給者証としてマイナンバーカードを利用可能とするため、令和8年度においては、新たに原子爆弾被爆者に対する医療の給付等を対象制度に追加するためのマスタ整備・周知に取り組むとともに、全国規模での導入に向け参加自治体が1,400団体程度(都道府県は全都道府県)となることを目指し、取組を進める。令和9年度以降も、未導入 となる自治体や制度について早期の導入を進める。


デジタル庁「令和8年「デジタル社会の実現に向けた重点計画」_本文」
https://www.digital.go.jp/assets/contents/node/basic_page/field_ref_resources/5ecac8cc-50f1-4168-b989-2bcaabffe870/208168e8/20260721_policies_priority_outline_03.pdf” より一部引用

2026年7月現在、自治体によってルールは異なるかもしれませんが、少なくとも私が勤務する地域では、マイナ保険証とは別に(必要に応じて)各種公費の受給者証の提示が必要です。
しかし上記の仕組みが実現すれば、マイナンバーカードによる資格確認時に公費・医療費助成の資格もオンラインで確認できるようになるかもしれません。


これらの内容から、薬剤師が特に知っておくべきこと

  1. 薬局が情報を受け取るだけでなく、提供する側になる
    これまでの医療DXでは、薬局はオンライン資格確認や電子処方箋から「情報を受け取る側」として説明されることが多かった印象ですが、今回の計画では、将来的に薬局が持つ情報も全国医療情報プラットフォームの一部として活用される可能性があることが示唆されています。
  2. 受付・調剤業務の流れが変わる
    電子処方箋の事前送信やマイナンバーカードによる公費の確認が普及すれば、従来の「患者さんが来局されたら資格確認をして、処方箋の原本と公費の受給者証を提示してもらう」という流れが、「患者さんが来局する前に処方内容・資格情報・公費の情報を確認する」という流れに変わる可能性があります。
  3. 必要な情報を適切に取捨選択できる能力が必要になる
    今回の計画が進行すれば、薬局で閲覧できる情報も増えると考えられ、「情報が存在するのに閲覧できない」という問題を解決することにつながります。一方で、状況に応じてどの情報が必要なのかを適切に判断できる能力を持っていないと、本当に必要な情報を見落としたり、本来必要なかった情報に引っ張られて判断を誤ったりすることにつながります。

まとめ

デジタル社会の実現に向けた重点計画の「医療DXの推進」を整理すると、以下の3点を実現するための計画であると解釈できます。

  • 全国医療情報プラットフォームを拡張する。
  • 電子カルテと病院のシステムを標準化・クラウド化する。
  • 電子処方箋、マイナ保険証、医療機関、薬局、PHR、公費の情報などを連携し、患者さんと医療従事者の双方の手続きと確認の負担を減らす。

そして、計画が予定通り進行することによって、薬局にも以下のような変化が生じると考えられます。

  • 薬局に電子処方箋を事前送付できるようになる
  • マイナンバーカードによる公費資格の確認ができるようになる
  • 薬局が持つ情報が、他職種にも共有・活用されるようになる
  • 診療情報・PHRなどの情報をもとに監査や服薬指導ができるようになる

今回の内容はあくまで「計画・検討」という段階なので、急いで新たな対策を講じる必要はないのですが、それでも今後数年の間に上記の変化が起こる可能性があるということは頭にとどめておきましょう。

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