医療分野向けのモデル「MedGemma」とは?
元論文:An open vision-language model for diverse medical applications – Nature Medicine
今回の論文はGoogleの研究チームなどによるもので、医療分野向けのAIモデル「MedGemma」の開発や評価についてまとめたものです。
研究の方法

Sellergren et al. (2026), An open vision-language model for diverse medical applications, Nature Medicine, Figure 1.
© The Author(s) 2026. CC BY 4.0.
1. 3種類のモデル
MedGemmaはGemma 3を医療分野向けに調整したモデルで、今回の論文では「文章と画像を入力できる4B・27Bモデル(マルチモーダル)」と「文章を扱う27B Textモデル」が評価されました。
前者の4B・27Bモデルで画像を読み取るときは、画像の特徴をAIが処理しやすい数値に変える仕組み「MedSigLIP」が活用されます。
このMedSigLIPの学習には、X線写真などの画像、皮膚の画像、病理画像、眼底の画像、そしてそれに関連する文章が使われており、MedSigLIP単独で画像を分類したり、類似した画像を探したりするような用途も想定されているようです。
また、MedGemmaの学習では、医療分野以外の情報を扱う能力も維持するため、医療分野のデータだけでなく一般的な画像や文章のデータも使用されました。
2. 評価
今回の研究では、「医学の知識を問う選択問題」「医用画像の分類」「画像についての質問・応答」「胸部X線画像の読影レポートの生成」「模擬診療における情報収集と診断」などでモデルが評価されました。
その際、学習に使ったデータセット内の別の問題による評価と、モデルの開発に使われなかったデータセットによる評価(OOD)が区別されています。
結果
1. 「医学の知識を問う選択問題」の成績は改善されたが、難易度が高い問題では改善が薄かった
医学の知識を問う選択問題の正答率は以下のような結果となり、MedGemmaによって成績が改善される傾向がありました。
- 4Bモデル:Gemma 3は52.4%、MedGemmaは64.1%
- 27Bモデル:Gemma 3は74.9%、MedGemma(27B Text)は86.2%
一方で、難易度の高い文章問題の正答率は、MedGemma 4Bが14.2%、27B Textが25.7%でした。
比較対象のGemini 2.5 Proは43.1%、o3は54.6%となっており、MedGemmaの性能が医療分野の複雑な問題を十分に解ける段階に達したとまでは言えません。
2. 画像分類は、領域によって改善幅が異なった

Sellergren et al. (2026), An open vision-language model for diverse medical applications, Nature Medicine, Table 3.
© The Author(s) 2026. CC BY 4.0.
MedGemmaの開発に使われていない胸部X線データ(CheXpert)による評価では、Gemma 3 4BのMacro F1は32.6、MedGemma 4BのMacro F1は48.1となっており、F1スコアが改善される傾向がありました。
また、病理画像の選択問題ではGemma 3 4Bモデルの正答率が37.1%であったのに対し、MedGemma 4Bでは69.8%まで改善されました。
さらに胸部X線のレポート生成では、306例を1人の放射線科医が評価した結果、81%のAIのレポートについて「元のレポートと同等以上」と判断されました。
(ただしこの項目に関しては、評価者はどちらがAIの文章かを知っていたことに注意が必要です)
一方で、皮膚の画像の分類の正答率ではMedGemma 4Bが71.8%、Gemini 2.5 Proが81.0%となっており、唯一汎用モデルの方が正答率が高くなる結果となりました。
3. 医学の知識が増えても、複数の手順に分かれた作業が得意になるとは限らなかった
模擬診療では、AIが患者役に質問し、情報を集めて診断しました。
その結果、モデル開発に使われていないデータセット由来の課題200件で、Gemma 3 27Bの正答率は35.2%であったのに対し、MedGemma 27Bの正答率は46.0%まで上昇しました。
一方4Bモデルは、この仕組みの中でシステムからの指示に従うことが難しかったようで、成績が掲載されていません。
このことから、単発の質問に答える能力と複数の手順を守って作業する能力は、別で評価する必要があると解釈できます。
4. 追加学習によって、医療分野における性能を向上させられる可能性が示唆された
皮膚の病変と気胸の分類では、追加学習後もMedGemma 4BがGemma 3 4Bより高い成績を示しており、その傾向は利用可能な学習データの10%だけを使った場合でも同様でした。
しかし、病理画像の分類に関しては、追加学習後にMedGemmaとGemma 3の成績の差が小さくなっていました。
ゆえに、著者らは「MedGemmaは、医用画像や文章を扱うAIの基盤となり、使いたい目的に合わせて追加で学習させることで、その性能を高められる可能性がある」と解釈しています。
注意点
- 比較されているモデルの成績には、別の機会に測定された値を引用したものもあります。
- 今回学習された画像は、主に二次元の画像です。
- 研究はAlphabetまたはその子会社の資金によるもので、多くの著者がGoogleの職員または元職員です。
MedGemmaのメリットは?
著者らは、MedGemmaの利点として「モデルのバージョンを固定できること」「オフラインで実行できること」「用途に合わせた調整の内容を管理できること」などを挙げています。
1. モデルのバージョンを固定できる
仮に自分たちでAIを活用するシステムを構築したとしても、モデルやサービスを提供する企業側がモデルを更新した場合、回答の長さや表現が変わったり、指示への従い方が変わったりする可能性があります。
もちろんAPIでもバージョンを指定できることはありますが、それでも最終的にモデルの提供・廃止・更新を決定するのはサービス提供側の企業なので、常に自分たちの意図した通りにシステムを維持できるとは限りません。
しかし、MedGemmaの重みを取得して自分の環境で動かす場合は、「MedGemma 4Bの特定のバージョンを、同じ環境で使い続ける」といったことが可能になりますし、モデルの更新を検討する場合も自分たちの好きなタイミングで行えるようになると考えられます。
特に医療AIに関しては、最新のバージョンのモデルより、その環境において性能が検証された「信頼できるバージョンのモデル」のほうが重宝されることもあるので、モデルのバージョンを固定できることは大きなメリットになり得るのです。
2. オフラインで実行できる
一般的なアプリやブラウザのAIの場合、ユーザーが送信した内容は、いったんインターネットを経由してサービス提供側のサーバー等に送信されます。
加えて、サービスによってはそのやり取りの内容が「保管」されるものもあります。
このような事情もあり、一般的に個人情報をAIに送信するのは望ましくないと言われるのですが、MedGemmaはローカルまたはオフラインで動かすことができ、理論上は施設内の端末(ネットワーク)だけで処理を完結させられるので、電子カルテ内の要配慮個人情報などを活用することも可能になります。
ただし、施設内のサーバーで情報を管理する関係上、セキュリティ対策や障害の対応なども自分たちで担う必要があります。
3. 用途に合わせた調整の内容を管理できる
MedGemmaをそのまま使うのではなく、自分たちの業務のことを追加で学習させてから活用する、といったことも可能になるでしょう。
例えば、MedGemmaに一般的な日本の薬局の業務や施設内の特定の業務などを学習させることで、「自施設に特化した医療AIモデル」として動かせるようになるかもしれません。
まとめると
MedGemmaの特徴をざっくり整理すると、以下のようになります。
- 固定できる:このモデルを使う、と決める。
- 自分たちの環境で動かせる:データの流れを、自分たちで確認・管理する。
- 自分たちの用途に調整できる:必要な業務に合わせて、事後学習やRAGの設計を行う。
ただし、著者らはMedGemmaをそのまま臨床現場に投入できるとは述べていませんし、出力をそのまま診断・治療方針の決定などに利用することも想定していません。
MedGemmaはあくまで、「医療機関側が管理・調整・検証できるAIシステムの基盤」という位置付けと解釈するのが妥当でしょう。