日本語の医療分野に特化したLLM「SIP-jmed-llm-4」とは
【情報元:https://www.nii.ac.jp/news/release/2026/1026.html】
2026年10月26日、国立情報学研究所(NII)を中心とする研究チームは、日本語の医療分野に特化したLLM「SIP-jmed-llm-4」と、SIP-jmed-llm-4を中心に置いた「過去の症例から整理された知識を参照しながら、医師の鑑別診断を支援する医療AIエージェント」を構築したことを発表しました。
今回は、このSIP-jmed-llm-4と医療AIエージェントについて詳しく見ていきます。
SIP-jmed-llm-4とは
日本語の医療分野に特化したモデル
SIP-jmed-llm-4の基盤モデルはNIIが開発した国産LLM「LLM-jp-4-33b-base」で、LLM-jp-4-33b-baseに日本の医療分野に関する追加学習を行い、日本の医療に特化させたのがSIP-jmed-llm-4です。
SIP-jmed-llm-4は約332億のパラメータを持ち、外部ツールを利用して情報を取得・活用する機能も備えています。
また、NIIによると…
本システムは研究開発段階のプロトタイプであり、医師の診断や判断を代替することを目的としたものではありません。
国立情報学研究所ニュースリリース「国産医療LLMと3万例規模の疾患因果ダイアグラムを統合した医療AIエージェントを開発~医師国家試験ベンチマークで90%超を達成した「SIP-jmed-llm-4」を活用、医師向け試験公開へ~」
https://www.nii.ac.jp/news/release/2026/1026.html より一部引用
このように明記されており、あくまで医師の鑑別診断の支援が目的であると解釈できます。
ベンチマーク「JMedQA」の正答率は、90%超
【補足:JmedQA】
研究チームが公開している「JMedQA」は、日本の医師国家試験問題をもとに作られたベンチマークで、AIの医学に関する知識や問題解決能力を評価することを目的としています。
SIP-jmed-llm-4は、JMedQAの全3,581問に対して正答率90.7%、2026年の400問(3,581問に含まれる)に限ると正答率93.0%と、高い正答率を記録しています。
ただし今回の評価では画像が提示されておらず、画像を参照する問題については、画像を閲覧できないことをAIに伝えたうえで、問題文をテキストとして与えている点には注意が必要です。
医療AIエージェントの仕組み
鑑別診断までの流れ
今回発表された医療AIエージェントは、以下のような仕組みで鑑別診断の支援を行うことが想定されています。
- LLM(SIP-jmed-llm-4)が「症例知識グラフ」を参照する
- 症状や検査結果に関連する知識を取得する
- 考えられる疾患の候補を挙げ、診断の補助をする
症例知識グラフは「約3万例の過去の症例をもとに、疾患・病態と症状・検査結果などの関係を整理した外部知識」で、この症例知識グラフを実際に使うことにより、鑑別診断ベンチマークの平均評価点(3点満点)が1.74点から1.97点に上昇したと報告されています。
医療AIエージェントの活用は、専用のWebアプリケーションから
今回の医療AIエージェントは、専用のWebアプリケーションにアクセスして使用する形式となっています。
このWebアプリケーションには、医療AIエージェントを動かすための機能だけでなく、関連する症例報告の文書を検索・参照するための情報源「症例報告データベース」にアクセスできる仕組みも整っており、医師が必要に応じて症例報告の文書を閲覧することも可能です。
なお、医療AIエージェントやWebアプリケーションは現在のところ研究開発段階のプロトタイプという位置づけで、今後は主に医師による試験利用を経て安全性や有用性を検証していく予定となっています。
日本の医療に適したAIを、日本で開発・管理するということ
国民の健康と生命に直結する医療分野では、日本の言語・医療制度・診療実践に根ざした高性能なLLMを国内で主体的に開発し、その技術や開発過程を把握・管理できる体制を確立することが、医療AIの技術的主権を確保するうえで重要な課題となっています。
国立情報学研究所ニュースリリース「国産医療LLMと3万例規模の疾患因果ダイアグラムを統合した医療AIエージェントを開発~医師国家試験ベンチマークで90%超を達成した「SIP-jmed-llm-4」を活用、医師向け試験公開へ~」
https://www.nii.ac.jp/news/release/2026/1026.html より一部引用
特に、個人的には「国内で主体的に開発し、その技術や開発過程を把握・管理できる体制を確立すること」が重要であると考えています。
例えば、日本のとある臨床現場において不適切な回答が見つかった場合を考えると、海外製のモデルを採用した医療AIであっても、日本の担当者が「参照する知識の更新」「質問への指示の調整」「回答の検証の方法の見直し」を行うことは可能ですが、その問題を解決するためにモデル自体の追加学習や変更が必要な場合は、モデルの公開状況や利用条件によって制約が加わるため、対応が困難になる可能性も否定できません。
一方、医療AI(モデルだけでなく、システム全体)を日本国内で開発・管理することができれば、上記のような問題が見つかった際に国内の開発者側が直接検討し、改良につなげられる可能性があります。
このような「国や地域が、AIの開発(学習・評価・運用)に関して主体的に把握・管理し、自分たちの言語や制度、社会の実情に合わせて改良しつづけられるようにする考え方」をソブリンAIと呼びます。
この考え方は、データの主権やセキュリティ・プライバシーを守りつつ、海外の企業による規制・方針変更に左右されないAIの活用という観点からも重要とされていますが、センシティブな情報を多く取り扱う医療AIとも親和性の高い概念であると言えるでしょう。