「Z世代の若者」は、薬局でのAI活用をどう受け止めるのか?
元論文:https://utppublishing.com/doi/10.3138/cpj-25-0114
今回の研究は、カナダの大学生181人に対して「処方された薬を薬局で受け取る架空の場面」を示し、そこに登場する薬局の評価が「薬局のAIに対する態度・関わり方」によって変化するかを検証したものです。
研究の方法
1. 参加者とグループ分け
今回の研究は、2025年3月にオンライン調査形式で実施されました。
参加者(181人)はカナダの大学で募集された1997〜2012年生まれの「Z世代」で、参加者181人のうち180人はChatGPT、チャットボット、音声アシスタントなどのAIサービスを利用した経験があり、173人は「処方された薬を受け取る」「薬について相談する」といった薬局内サービスの利用経験がありました。
著者らは検証にあたって、参加者を次の4種類の場面のいずれかにランダムに割り当てています。
- No AI(43人):AIを使わず、従来の方法で対応している
- Low AI(49人):AIチャットボットが一部支援している
- Medium AI(43人):AIが薬剤師の臨床判断を支援している
- High AI(46人):薬剤師の関与が最小限で、処方された薬の調剤・交付は完全に自動化されている
いずれの場面でも、処方された薬を受け取るまでの時間は通常の薬局の利用時と同じという設定です。
2. 評価
各場面を確認した参加者は、「サービスへの満足度」「薬剤師への信頼」「再びその薬局を利用したいか」などを原則として5段階で評価し、それに加えて薬局の業務全般を支援するAIに対しての「一般的な印象」も調べられました。
ここで言う「一般的な印象」とは、以下の評価項目のことを指します。
- 業務を支援するためにAIを使うことは賢明な方法だ
- AIを使うことは前向きな進歩だ
- 処方された薬の調剤や交付にAIが使われるという考え方が好きだ
結果
1. AIへの一般的な印象は、比較的中立に近かった
薬局の業務をAIが支援することに対する一般的な印象を調査したところ、以下のような結果となりました。
- 調剤を支援するためにAIを使うことは賢明な方法だ:5点満点中3.23点
- AIを使うことは前向きな進歩だ:5点満点中3.22点
- 処方された薬の調剤にAIが使われるという考え方が好きだ:5点満点中2.92点
全体平均で見るといずれの項目も5段階評価の中央である3点に近い値となっており、少なくとも薬局内の業務にAIを活用することを積極的に支持する結果ではなかったと解釈できます。
2. サービスへの満足度は、AIを使わない場面で高かった
受けたサービスへの満足度の平均は、No AIが4.49点、Low AIが3.61点、Medium AIが3.86点、High AIが3.67点でした。
AIを使わないNo AIの満足度評価は、AIを活用する他の3場面の評価よりも統計的に有意に高くなりましたが、サービス満足度に関連する「薬剤師が期待に応えたか」という項目に関しては、No AIとMedium AIの間に有意差は認められませんでした。
3. 薬剤師への信頼に関しても、AIを使用しないほうが高くなる傾向があった
「薬剤師への信頼」の評価の平均は、No AIが4.35点、Low AIが3.73点、Medium AIが3.44点、High AIが3.20点でした。
No AIの評価はAIを活用する他の3場面の評価よりも統計的に有意に高く、Low AIとHigh AIの評価の間にも有意差が認められました。
また、薬剤師への信頼に関連する「薬剤師が非常に丁寧で注意深い」という項目では、Low AIの評価はHigh AIより統計的に有意に高くなりました。
4. 再び利用したいという意向も、AIなしの場面の方が高かった
「再びその薬局を利用したいか」という項目では、No AIの平均が4.35点だったのに対し、他の3場面は3.46〜3.63点でした。
「他の人にその薬局を勧めたい」「再びその薬局のサービスを選びたい」という項目も含め、No AIの評価はAIを活用する他の3場面の評価よりも統計的に有意に高い結果となりました。
注意点
- Z世代全体の意見を代表する結果ではありません。
- 実際の薬局での体験ではなく、架空の場面に対する回答であることに注意が必要です。
- 今回用意された4つの場面では、AI活用の有無だけでなく、AIの役割や薬剤師の関与の仕方も異なっているため、評価の差が生じた原因を一つに絞ることはできません。
なぜ「Z世代」?
著者らは、今回Z世代に注目した理由を以下のように説明しています。
1. AIに触れる機会が多い世代だから
著者らはZ世代に関して、「新しいAI技術に比較的前向きで受け入れやすい傾向があり、学習用のAIツール、チャットボット、医療関連アプリなどにも日常的に触れている」と解釈しています。
実際、今回の参加者181人のうち180人(99.4%)には、ChatGPT、チャットボット、音声アシスタントなどのAIサービスの利用経験がありました。
ただし、他の世代との比較がされていないため、この研究自体から「Z世代が他の世代よりAIに前向きかどうか」までは判断できません。
2. 今後、患者として薬局を利用する世代だから
著者らは、「今後Z世代が歳を重ねるにつれて、自分自身の健康管理に気を配るようになり、薬局を利用する機会が増える可能性」にも注目しています。
これは私の感想ですが、今後の薬局のAIの導入・活用を考える際に、そのユーザーとなる世代が(現時点において)薬局のAI導入をどのように受け止めるかは、確かに気になるところです。
3. 患者としての視点(特に薬局での視点)が不足していたから
著者らは、これまでの医療分野のAIに関連する研究について、以下のように述べています。
- Z世代の医療分野のAIに対する態度や印象は、主に将来の医療従事者となる学生などの視点から検証されてきた。
- 患者に直接関わるAIについての研究は、メンタルヘルス、遠隔医療、デジタルヘルスアプリなどに焦点を当てたものが多かった。
そこで今回の研究では、日常的に利用する可能性のある地域の薬局で薬を受け取る場面を想定し、「薬局のAIに対する態度や関わり方」によってZ世代の患者からの評価が変わるかが検証されました。
AIを日常的に使っていても…
先ほど申し上げた通り、今回の参加者のほとんどはAIツールの利用経験があったのですが、それでもAIを全く使わない薬局の方を、「サービスへの満足度」「薬剤師への信頼」「再度利用したいと考えるか」の観点から好ましいと評価する傾向がありました。
なぜこのような結果になったのかまでは明らかになっていないのですが、個人的には以下のような理由に基づいているのではないかと思っています。
- AIの出力に誤りが含まれ得ることなどを、身をもって理解していた
- 文章の推敲程度なら受け入れられるが、自身の健康に関するハイリスクな部分で活用してもらいたくなかった
- 自身の健康に関することは、直接薬剤師に話したいと考えていた
- 個人情報の取り扱いに関する不安があった
基本的に、患者さん側は「薬局がどのようなAIをどのように活用しているのか」「どれくらいの正確性が担保されているAIなのか」「自分の情報がどのように取り扱われているか」などを知らない状態で薬局を利用します。
そのため、単に「AIをこのような用途で使っている」とだけ説明された患者さんは、逆に不安になる可能性があります。
ゆえに、患者さんから「AIをどのように使っているのか」と聞かれた時は、「AIを活用している範囲」「情報が安全に取り扱われていること」「出力された内容は薬剤師が確認していること」などを具体的に説明できた方が、安心してもらえるかもしれません。
今後もAIを日常的に活用する人が増えていく可能性があるからこそ、薬局のAIの活用については丁寧に説明できるようにしておいた方が良いでしょう。