調剤薬局に、どこまでAIを介入させるべきか

このポストは、McKinsey & Companyが示した「エージェンティックAI(agentic AI)による意思決定フレームワーク」と、それがカスタマーサービスリーダーに与える影響を説明した資料です。

参考:AIエージェントとエージェンティックAIの意味の違い

いわゆる「AIエージェント」と、今回の「エージェンティックAI」は、似たような言葉ではありますが、厳密には意味合いが異なります。

  • AIエージェント:自律的にタスクを遂行できるAIプログラムの総称で、入力を受けて判断・行動を起こします。
    「AIプログラム、システムの形式」「こういうAIがあるよ」という具体的なものです。
  • エージェンティックAI:意思決定や目標達成において「主体性(agentic)」を持つAIと考えてください。タスク実行だけでなく、意図・選択・判断プロセスを持つAIを意味します。
    「AIにどの程度意思決定を任せられるか」「どこまでAIに任せるべきか」という議論で使われる用語です。

McKinsey & Companyが示した「エージェンティックAI(agentic AI)による意思決定フレームワーク

実際の調剤薬局の話に入る前に、冒頭に引用したXのポストの内容の説明から始めます。
ポスト内の画像は、縦軸を意思決定の失敗によるリスク、横軸を意思決定の複雑さとして、どの程度AIに役割を与えられるかを分類したものになります。

McKinsey & Company “Each decision across a process and workflow can be closely evaluated during the redesign phase for feasibility of agentic Al use.” より引用・改変

また、画像では「エージェンティックAIの意思決定がカスタマーサービスの責任者に与える影響」についても言及しています。

1.プロセス(Process)
  • 自動化の適合性をケースバイケースで評価(効率だけでなく価値やリスクも考慮)
  • AIが自律的に判断できるケースは任せ、高リスクは人間が関与する設計とする
  • 新しいワークフローやプロセスを設計し、AIが意思決定できる環境を整備
2.人材(People)
  • AIの監督、介入、責任範囲を明確にした新たな役割を設定
  • 職務内容やスキルを再定義し、AI導入による役割変化に対応
  • 社員の受け入れを促進するために、役割の明確化や研修、導入計画が必要
3.技術(Tech)
  • エージェンティックAIの意思決定をリアルタイムで監視(ダッシュボード、監査ログなど)
  • 拡張可能なオープンアーキテクチャを導入(API、モジュール型システムなど)
  • インフラ(データパイプライン、セキュリティ、計算能力)を整備

いろいろ書きましたが、ここまでの話を簡単にまとめると、

  • すべての業務・意思決定をAIに任せるのではなく、リスクと複雑さに応じたAI活用の判断が必要。
  • 組織全体でAIの役割・責任・運用設計を明確化することが、効果的な導入と定着の鍵となる。

ということになります。

調剤薬局の業務に当てはめると

ここからは私なりの解釈になりますが、参考になれば幸いです。
まずは、縦軸と横軸を再定義しましょう。

リスク(縦軸)

: 調剤過誤(薬種、用量、患者間違い)、重篤な副作用の見逃し、過敏症の既往がある薬剤の交付。これらは患者さんの生命に直結し、取り返しのつかない事態をもたらす可能性があるもの。
: 軽微な情報提供漏れ、服薬指導内容の不足、保険請求の軽微なミス。患者さんへの影響は中程度ですが、信頼性や業務効率に影響するもの。
: 事務的な入力ミス(患者さんの氏名の一部間違いなど、すぐに修正可能なもの)、軽微な清掃忘れ、備品発注のタイミングの遅れ。患者さんへの直接的な影響は比較的少なく、容易に修正可能なもの。

複雑さ(横軸)

:複数の基礎疾患を持つ患者さんへの多剤併用薬の相互作用評価、新規薬剤の服薬指導内容の組み立て、特殊な製剤(麻薬など)の管理、患者さん個々の背景を考慮した服薬アドヒアランス向上策の提案、保険請求の難解なケースの判断。曖昧な要素が多く、経験や知識、判断力が求められるもの。
:既知の相互作用の確認、一般的な薬剤の服薬指導、処方箋の基本的な監査(日数、用法用量など)、定型的な在庫補充の判断、一般的な保険請求処理。データにパターンが存在し、ある程度のルール化が可能なもの。
:処方箋の受付、処方入力(簡単な処方)、薬剤のピッキング(バーコード照合など)、来局患者の誘導。単純で反復的な作業が多く、明確な手順が存在するもの。

これを踏まえて、先ほどの表に調剤薬局の業務を当てはめてみます。

画像

そして「プロセス」「人材」「技術」の観点から経営する側(責任者)に及ぶ影響も考えてみます。

1.プロセス
  • AI導入の可否をリスク・複雑さベースで分類
  • 「重要判断は人間」の原則を保持
  • 薬歴・監査・調剤補助など、業務フローの再設計を検討(例:AIが入力→薬剤師が承認)
2.人材
  • 「誰がAIを監督し、どこまで介入するのか」を業務ごとに明確化
  • 新しい役割(例:AI活用推進担当)や責任範囲の設定
  • スタッフ全体のAIリテラシー教育と、導入への心理的ハードルのケア
3.技術
  • 調剤システムや薬歴とのAPI連携・ログ管理の整備
  • どの薬局でも導入・管理しやすい設計を優先
  • 個人情報(要配慮個人情報)を扱うため、セキュリティと監査を重視

まとめ

調剤薬局においてAIを活用したシステムを導入することにより、業務の効率化・品質向上に大きく寄与すると考えられます。
しかし、何に対してもAIを導入して一任するのではなく、リスクや業務の性質に応じた適切な使い分けと設計が必要となります。

AIの進歩が凄まじい時代ですが、決して完璧ではありません。
「すべてをAIに任せる」のではなく、「人とAIの適切な役割分担」を行うことを忘れないようにしましょう。

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